芸人の嫁日記

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【ネタバレあり】映画『ヴィオレッタ』に毒親からのサバイブ方法最適解をみた!

 

映画『ヴィオレッタ』予告編

監督:エヴァイオネスコ
主演:イザベル・ユベール
公開:2014年 

ヴィオレッタ [DVD]

この作品はポスター(上のやつ)からして、母と娘のどろどろ愛憎劇そうなので「興味あるけど絶対重いわー」と避けていた作品です。

先日たまに襲ってくる「綺麗なものが見たい」発作に乗じてやっと見ることができました。結果なんで劇場でみなかったんだと自分を問い詰めたい気分に。

 

 

 

伝説の耽美写真集『鏡の神殿』

新装版 R---イリナ・イオネスコ写真集 (パン・エキゾチカ)

  1977に発売された『鏡の神殿』は、カメラマンであるイリナイオネスコの実娘がオールヌードで写っています。それだけでもだいぶやばいのですが、それ以上にバロック調の圧倒的な退廃美に危険すぎるほどの引力があります。

 とはいえ、わたしも引用でしか見たことがないので、全ページは未見です。この写真集は90年代後半のゴシックブームの時に色々な媒体で紹介されました。当時すでにうん十万円の高値で取引される超プレミア付きの写真集で「いつかあの写真集が欲しい」と執念に近い思いを抱いたのを覚えています。

 今では誰がどうみても倫理的にアウトな小学生〜中学生女子のオールヌードなのですが、たとえ品性を疑われてもいいと思わせるほど欲しくなる危ない写真集です。

 この写真集の被写体になった少女の半生が、本人の監督により作品化されたのが『ヴィオレッタ』(原題:"My little prinsess")です。

 

母娘どろどろ奮戦記。イオネスコ家の場合

www.afpbb.com

 2012年に『鏡の神殿』の被写体である娘エヴァが母親を提訴。同年彼女が映った写真のネガ引き渡しと賠償金支払い命令を勝ち取って娘の勝利となりました。その2年後の2014年に彼女の初監督作品として封切られたのが『ヴィオレッタ』です。 

 エヴァ監督は母親のモデルをやめたあと、演技を真摯に勉強し女優として活躍していたようです。表現者として地に足のついた生活をしていたのは本当に素晴らしい。

 現在は母親とどれくらい交流があるのか不明ですが、この訴訟と映画製作がひとつの”けじめ”だったと予想されます。

 

 『ヴィオレッタ』は毒親サバイブ方法の最適解だ

そもそも、毒親とは?

この作品のテーマは「母と娘の確執」です。いま叫ばれる毒親問題と真正面からがっぷり四つに組んでいます。

 そもそも「毒親」とは?それは虐待や過干渉などで子供の健全な成長を阻害する親のことです。2001年にスーザン・フォワードが著した『毒になる親』から派生した造語だと思われます。

毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)

毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)

 

  社会に馴染めない、協調性のある行動が取れない、うつやひきこもりなどに苦しめられるといった成人の悩み。それは幼少期に受けた親の影響に起因するという説を提唱しました。私はこの本にあった過干渉、過保護も立派な虐待であるという主張にハッとしたのをよく覚えています。

 

解決法1:距離を置く

My Little Princess

 なんだかんだこれが一番難しいと思います。

 親と距離を置く、というのが毒親問題を解決するための最初の大きな試練と言われています。

 映画では娘がモデルをやめた途端母親の作品がぱったり売れなくなり、二人はみるみるうちに貧しくなっていきます。母親に健全な育児能力がないと判断した福祉局が度々娘を施設に入れるよう提案しますが、娘は自らの意思で全て拒否します。

 その後も母娘は拒否と和解を繰り返しながら、いつも折れるのは主人公である娘です。いやだいやだと思っていても離れなれない少女の情がなんとも痛々しい。

 そして最後のシーンで主人公は自ら福祉施設に入居。母親との関係を主人公が断ち切った瞬間です。それまで母親のいいなりに着ていたエレガントで上品なドレスをやめて、本人がずっと好きだったパンクの格好をしているのも感動的でした。自由と引き換えに並々ならぬ痛みを負った少女の姿は涙腺崩壊ものです。

親とは簡単に離れられるものじゃないし無傷では済まない、それでも踏み出した先には自由があるという監督からのメッセージを感じました。

 

解決法2:相手を客観的に観察する

  家族との確執を片方から描く場合、大抵もう片方はおそろしくグロテスクな人間として描写されます。本人の恨みがまだ昇華されていない場合には、あくまで被害者はか弱き存在です。

 しかし、この映画は母親を一方的なモンスターに描いていないところが素晴らしい!母親はひたすら不器用な世間知らずのお嬢さんなんです。優れた感性がありつつも社会性に乏しくて、うっとうしいほど娘に対して甘えん坊です。

 親としての能力は完全に欠落していますが、人間としてはなんだか憎めないチャーミングな人 。そして彼女が社会性を育めなかったのは、家庭環境が複雑だった(父からの性的虐待があった?)可能性も匂わせます。

 このように母の罪は罪として、しかし人間的魅力も同時に描写できたこところに自伝映画としての出来の良さを感じます。

 

解決策3:過去を認める

 幼少期にできた不健全な思考回路や、思い出したくない記憶を克服するには様々な段階があると言われています。そのなかでも克服成功に近い段階は、過去の自分を許すことだそうです。重要なのは許す相手は親ではなく自分というところ。

 この映画は母親にきれいきれいと褒められて無邪気に喜ぶ時点から、母親から逃げ出すまでを描いています。その全ての映像がとても美しく、彼女の嫌な記憶であろう母親との撮影シーンがもっとも華やかです。しかし主演女優をヌードにする指示は決して出さなかったそうです。

私が母親に小さい頃に撮られた写真とこの映画を一緒にしないで欲しいと思います。それだけはお願いしたいと思います 

この作品と母が撮った幼い頃の私の写真集と決して一緒にしないで欲しい『ヴィオレッタ』 « トーキョー女子映画部の取材リポート

  監督にとってつらい記憶を作品にしているのに、アート作品として妥協しない。そして俳優の人権も無視しないという姿勢に拍手喝采です。これこそ辛い経験を自らの糧にしたという好例だと思います。

 

親子の問題に悩む人に寄り添う作品

 

 

 親子のどろどろをあますことなく描く作品は世に数多あります。悲惨な決別で終わる作品もたくさんあります。

 しかしこの映画は親が嫌なら離れればいいという体験者からの力強いメッセージがこめられ、生きる希望に満ち溢れています。

 切ない人間模様を美しい衣装とフランス映画特有のこっくりとした画面に酔いながら味わえる『ヴィオレッタ』、おすすめです。

  

violetta-movie.com